向田邦子さんの没後30年を記念して、鹿児島市のかごしま近代文学館(鹿児島市城山町、TEL 099-226-7771)で現在、「脚本家向田邦子の顔」企画展が開催されている。
向田邦子さんは1929(昭和2)年生まれの脚本家・エッセイスト・小説家。1981(昭和56)年に飛行機事故で亡くなるまで、テレビドラマをはじめ、数々のヒット作品を生み出してきた。向田さんは小学生時代の約2年間を鹿児島市で過ごしたことから、鹿児島に対し故郷に似た感情を抱いていたと言われている。エッセー「父の詫び状」の中で、向田さん自身、鹿児島を「故郷の山や川を持たない東京生まれの私にとって、鹿児島はなつかし『故郷もどき』なのであろう」と記している。
同館は、向田邦子さんの遺品約8500点を収蔵。「(向田さんを)鹿児島に嫁入りさせよう」という向田さんの母・せいさんの言葉から、向田さんの遺品のほとんどが同館へ寄贈されているという。
展示室には、直筆の原稿や直木賞の受賞目録をはじめ、仕立ての良いコートやセンスの良い私物が並び、今日でも人気の高い「向田スタイル」の一端がうかがえる展示となっている。
脚本家としての向田さんをクローズアップする同展。同館学芸員の森山鮎美さんは「向田さんは、きちんと見ていなければ見過ごしてしまう日常を、誰にでもわかるように描き出している。エッセー・小説なども高い評価を得ているが、向田さんの原点は脚本にあると考え企画した」と話す。「向田さん自身、テレビドラマという手法をとても楽しんでいたようだ」とも。
来年1月2日にTBS系列で新春ドラマとして放映される「花嫁」の脚本も主要資料として展示されている。同作は35年前、向田さんがTBS「日曜劇場」のために書き下ろした作品。母と娘の関係をテーマにした内容だ。「企画展でも重要な役割を果たしてくれている『花嫁』が放送されると知り、大変うれしい。向田さんは父の姿を多く描いたように捉えられがちだが、母と娘の関係も多く題材にしている。『花嫁』は、向田さんが乳がんを患ってから間もなく書かれた作品ということもあり、向田さん自身にとっても、母と娘について見つめ直す作品という意味合いがあったのかもしれない。『花嫁』はその世界観を肌で感じられる身近な作品」と森山さん。
開館時間は9時~18時。火曜休館(祝日の場合翌日、年末年始は12月29日~1月1日)。入館料は、一般=300円、小・中学生=150円。