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鹿児島出身の作家・汐見夏衛さんの小説が累計10万部 TikTokバズり増刷

丸善・天文館店に並ぶ汐見夏衛さんの作品

丸善・天文館店に並ぶ汐見夏衛さんの作品

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 鹿児島出身の作家・汐見夏衛さんの小説『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)の累計発行部数が10万部を超えた。

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 2016(平成28)年7月に刊行された同作品は、母親とケンカをして家を飛び出した女子中学生が「目をさますとそこは70年前、戦時中の日本」で、出会った特攻隊員に恋をする青春小説。版元の広報担当者は「今年6月に一般読者がTikTokにアップロードした15秒程度のショートムービーがバズった」と話す。同作品の表紙と音楽を使った動画に「もう大号泣どころじゃない。身体中の水分持ってかれる」というコメントが添えられた投稿には「26万を超える『いいね』が付き、書店にも問い合わせがあった。4年前の作品だったためすぐに在庫切れとなり、重版が続いた」とも。

 汐見さんは「心の底から驚いている。本作は私のデビュー作で思い入れの強い作品だが、ここ数年は店頭からも消えかけ、少し切なく思っていた。ところが、ある日突然、ツイッター経由で『どこに売っているのか』という問い合わせが相次ぎ、担当編集者に連絡したところTikTokの件を知った」と話す。「本作の発売当時にはまだ存在していなかったTikTokを通じ多くの方の目に触れる機会を得たことは、感謝してもしきれない」とも。

 鹿児島市下福元町に生まれた汐見さんは、大阪への大学進学を機に鹿児島を離れ、今は教員としての就職先だった愛知県で暮らしている。同作品は、小中学生の時に社会科見学で訪れた知覧特攻平和会館での衝撃や感情を元に構想したという。物語には「特攻の母」と呼ばれる鳥濱トメさんをモデルにした人物も登場する。

 また、汐見さんの祖父母から聞いた戦争の話も根底にある。「祖父が戦場で死んだふりをして助かったという話や、たまに轟沈という言葉を使っていたこと、祖母の満州での暮らしや引き上げるときの苦労話を聞いたことがあり、身近な人が経験したものであることは自分の中に深く根づくきっかけになった。祖父の家の仏壇に飾られていた親族の遺影には軍服を着たものもある。いつも見ていたのでとても印象に残っている」

 汐見さんは高校教員時代、今の高校生が戦争の話をあまり知らない、特攻隊についてもよくは知らないという現実に直面したという。「私は祖父母などから戦時中の生きた体験談を聞けた。恐らく戦争をある程度身近なもの、数十年前に現実に起こったものとして感じることができた最後の世代なのではないかと思う」

 「生きた体験談を聞いた時の言葉にならない衝撃、自分の中核に飛び込んでくるような心を揺さぶられる感覚、そうしたものを自分より若い世代の人たちに継承しなければという思いで作品を執筆した」と汐見さん。「これからの未来を形成していく若者たちが社会の中心的な立場になった時に忘れてはいけないものを、本作を通して伝えることができれば」とも。

 12月28日には続編『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』(仮題)の刊行を予定している。

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