アフガニスタン国境地帯で医療活動や食糧配布などの難民支援活動を行っているNGO「ペシャワール会」(福岡市中央区)の現地代表、医師・中村哲さんの講演会「アフガンからみた平和と国際貢献」が9月11日、鹿児島市中央公民館(鹿児島市山下町)で開かれた。
結成5周年を迎えた「九条かごしま医療者の会」(事務局=霧島市)が主催。同会会員など約600人が中村さんの話に熱心に耳を傾け、メモを取っている様子も多く見られた。
中村さんは1984年、日本キリスト教海外医療協力会から、アフガニスタンとの国境に近いパキスタン北西辺境州ペシャワール・ミッション病院のらい病棟主任として派遣された。以来28年間にわたり、「誰もが押し寄せる所なら誰かが行く。誰も行かない所でこそ、我々は必要とされる」という考えの下、貧困層を対象とした治療、特にらい患者の治療・らい病棟の改善に当たってきた。一方、「100の診療所よりも一つの用水路の方が人の命を救える」「自然は絶対にコントロールできない。いかに自然と折り合うかが治水の基本的な考え方」と、干ばつ対策の井戸や全長225.5キロに及ぶかんがい用水路建設などにも取り組んできた。
講演では、そうした活動の経緯とアフガニスタンの実情を説明。スクリーンで、砂漠が広大な緑に変わったスライド写真、VTR映像などを紹介しながら「聴診器よりも重機の運転がうまくなった」、「28年間(活動を)やってこられたのは不思議としか言えない。強いて言うならば逃げ足が遅かったから」と、時折会場の笑いを誘った。「打つ手があるのに何もせずに引き下がっては男がすたると考えた」とも。
2001年の米同時多発テロ以降は「世界中が一斉にテロリストのいるアフガニスタン空爆を主張し、多くの子どもや女性が犠牲になった」と批判。タリバン政権の崩壊後は、麻薬の原料であるケシ栽培が急速に復活するなど、地域の治安が悪化したことにも触れた。最後に、「現地の人たちの表情は明るい。むしろ日本人の方が暗い顔をしている。豊かな生活をしているのに日本人の表情はなぜ暗いのか、何が不満なのか。今回の震災を機に日本は新しい時代を迎えようとしている。はつらつとした日本を取り戻すため、一人ひとりが人間の幸せとは何かをもう一度自らに問い直さなければならないのでは」と聴衆に問いかけた。
会場を訪れていた聴衆の1人は「雑誌でこの講演会のことを知り興味をもって来た。自分には知らないことが多いと知らされた。特に『悪い人にも真心はあり、良い人にも陰はある。良いことは誰がしようが同じ良いことである」という中村先生の言葉が心に残った」と話していた。